＊祭祀（チェサ）＊

　先日、祖父の法事のため、久々に
長野へ行ってきた。京都から長野は
なかなか遠いい。

まずは京都から東京へ向かう。
２時間ちょっとで東京駅着。

それから「あさま号」に乗り換え２時
間弱。各々の時間は短いのだが、
トータルで考えると４時間以上の旅。
座りっぱなしでお尻が割れそうである。

　京都から東京、東京から長野への
移動時間は、昔に比べれば本当に
短くなった。私が幼かった頃は長野
まで３時間以上かかり、幼さゆえ我
慢のきかない私は、むずがっては母
を困らせたものだ。
なーんてことを母と弟と話しながら一
路長野へ。

長野は寒いものと思っていたら、この日
は非常に暖かく、ちょっと安心。
祖母と先に来ていた叔母たちと挨拶を済ませ、祖父にお線香をあげる。
そして早速チェサの準備に取り掛かる。

　チェサとは漢字で「祭祀」と書き、韓国の法事のことを言う。日本では
亡くなった人の法事を１周忌や３回忌以後は歳月を置いて数回しか行
わないが、韓国では毎年、3世代か5世代の祖先全員の命日にチェサ
を行い、多い家では年に10回も執り行っている。ちなみに祖母は親戚
の数が多く、祖父が長男だったため、3世代分のチェサをほぼ毎月一
人で執り行っているらしい。祖先や家族の命日に行うチェサは、正式
にはキチェ（忌祭）と言う。

　チェサの料理には基本的ににんにくと唐辛子は使わない。ご先祖様
が嫌うと言うのである。
本当はにんにくを入れたほうが断然美味しいのだが、入れなくても十
分美味しいのが素晴らしい点だろうか。チェサの料理は、各家庭ごと
に異なるが大体決まっており、ご飯と汁、肉・魚類、野菜類、果物、
お餅と、並べる順番も決まっている。魚も本来はいしもちを利用するが、
日本ではなかなか手に入らないので石鯛辺りを代用している。
肉は鶏肉の丸焼きである。野菜類はナムル。
他に、チジミとジョン（野菜や肉に小麦粉と卵をまぶして焼いた物）など
である。チジミはニラに叩いたえびを入れたものと、にんじんの千切りが
入ったものを作る。ジョンは、しいたけ（乾燥しいたけの方が美味しい）、
タラ、牛肉、ホタテなどである。
他にはゆで卵、焼いた豆腐などである。

.......料理を並べた状態がこれ。右は横から撮ったもの。
本来、韓国は仏教ではないため仏壇は存在しないが、祖母の家には
仏壇があるので仏壇の前に並べる。
まず写真を立てかけ、その前にテーブルを置き、順番どおりに料理を
並べていく。ご先祖様が食べられるように、全て写真に向けて並べる。
実は各地方によって並べ方、方向が異なる。色んな地方の旦那のもと
に嫁いでいる叔母達だけに、「これはこっちだ」「これが正式な並べ方
だ」のと喧嘩が始まるが、祖母の「どうでも良いじゃないか」の一言で
丸く収まる。

全て並べ終えたら、チェサを始める。
何度も書いているように各家庭によってやり方が異なるので、ここでは
我が家のやり方を書く。

まず全員が故人の写真の前で一斉にクンチョル（お辞儀）をする。
長男（不在のため弟が代役）が焼香をし、お酒をコップに注いで、線香
の上で３回まわし、写真の前に供える。それから、額に両手を添えて
立った状態からそのまま地面にひれ伏す形で3回礼（チョル）をする。

次にお箸を縦に持ち、机の上で３回トントントンと鳴らして、供えてある
食べ物の上に置いていく。これを人数分繰り返す。

スンニュン（釜湯＝飯を炊いた後の釜に水を入れて沸かした飲み物。
面倒なのでただのお湯で対応。）をお汁と置き換えて、御飯とおかず
を少しずつ入れる。（このスニュンの中に入れたご飯は、本来は家の
前などに撒くのだが、現代の住環境ではそれは無理なので、後で捨
てる。）

後は片づけをしてチェサは終了である。

本来、チェサには女は参加しない。準備をするのは女だが、チェサを
執り仕切るのは男性の役目である。
だがしかし、女の寿命の方が長いのが現実。しかも昨今の核家族化
により、３世代同居でもしていない限り、女性だけでチェサを行う家も
珍しくない。ちなみに親よりも先に亡くなった子供のチェサは行わない。

　チェサが終われば待ちに待った夜ご
飯である。何が楽しみって、これが
楽しみなのである。
お供え物を、ありがたく頂く。
一番大事な行事である。
これがなければ、女性にとっては
本当にただ苦痛なだけの行事だ。
本来はこの席にも、女性は参加で
きないのだが、女性しか居ないの
である。堂々と食べれば良いのだ。

こうして夜は更けていく。女性ばかりだと、なかなか酒宴にならないの
で、弟といとこと私だけが台所でちびちび飲む。
「いい加減寝なさいよ！」と、祖母、母、叔母達に怒られながら飲む。
世間の肩身の狭い思いをして飲む親父達の気持ちが少しだけわかる。

そして次の日は墓参り。
本来は命日の当日、午前0時から
チェサを始め、朝、そのまま墓参り
に行くのだが、それはさすがに辛い
ので次の日にしている。韓国の田舎
や、日本でも、お墓でチェサを執り行
っている家族もあり、本来はそれが
正式なようだ。多分。

5年ぶりくらいの墓参り。
本当にじいちゃん不幸者だと思う。
祖父のお墓は山の上にあり、昔は墓の入り口までしか車が入れなかったのだ
が、今では墓の真上まで車で入ってくることができる。
この日は天気もよく、浅間山が良く見えた。

一昨年は韓国留学、去年は京都に居て、チェサ自体2年ぶりだった。
私の姉は特殊な人で、在日朝鮮人の家に嫁いだ理由が「チェサをやりたいか
ら」だった。でも久々に参加して、幼い頃から慣れ親しんできたこのチェサを、
いつまでも続けていきたいと心から思った。